生成AI研修という言葉を聞くと、多くの方は、決まったカリキュラムがあって、講師が順番に使い方を教えてくれる座学を思い浮かべるのではないかと思います。私も研修を頼まれることがあるのですが、実はその形はとっていません。カリキュラムを配って操作を教える、という進め方をしないのです。代わりに、その会社の実際の業務を題材にして、私が実際に作って見せて、受講する側に選んでもらいながら、一緒に作っていきます。なぜそうしているのか、研修の届け方について書いてみます。
教える、のではなくて、作って見せる
私の研修は、ひとことで言うと「教えない・見せる・選ばせる」という形に近いです。
まず、汎用のカリキュラムを配りません。その代わりに、事前にその会社の業務を少し聞かせてもらって、そのうちのいくつかを題材に、私がその場で作って見せます。たとえば毎回手で転記している作業とか、定型の文面を毎回書き起こしている作業とか、そういう身近な手順を、実際にAIやちょっとした仕組みで組み替えるところをその場で動かしてみる、という進め方です。
そのうえで、どの業務を題材に進めるかは、受講する側に選んでもらいます。私が「これが便利ですよ」と押し込むのではなく、「みなさんの中で、これは毎回しんどいな、という作業はどれですか」と聞いて、そこから一緒に作っていく。だから研修のたびに中身が変わります。同じスライドを使い回すことは、ほとんどありません。
座学が悪い、と言いたいわけではないんです。使い方を体系立てて一通り知りたい、という段階では、整理された講義が合う場面もあると思います。ただ、私が扱いたいのはその一歩先で、知った使い方を自分の業務でどう使うか、というところなので、この形を選んでいる、という感じです。
なぜカリキュラムを配らないのか
理由はいくつかあるのですが、根っこにあるのは、丸暗記した操作は現場で使われにくい、という実感です。
私自身、新しいツールの使い方を一通り習っても、いざ自分の仕事に戻ると、どこで使えばいいのか分からないまま離れていった、という経験が何度もあります。手順は覚えたのに、置き場所が決まっていない。工具の使い方は習ったけれど、直したいものが自分の中で決まっていない、みたいな状態です。このあたりは生成AIを業務に入れるとき、私がツールの話から始めない理由にも書きました。
汎用のカリキュラムは、どうしても「一般的な業務」を想定して作られます。でも実際の会社の業務は、その会社ごとに手順も事情も違うんですよね。一般的な例で操作を覚えても、自社の業務に翻訳する作業がもう一段必要になる。そして、その翻訳のところでつまずいて、結局使われなくなる、というのをよく見聞きします。
だったら最初から、自社の業務そのものを題材にしたほうが早いのではないか、と考えています。自分たちが毎日やっている作業がその場で組み替わっていくのを見ると、「あ、これはうちのあの作業にも使えるな」と、自分ごととして手が伸びやすくなる。使う理由が、業務の側に最初からある状態を作りたいわけです。
もし、自社の業務を題材に使いどころから一緒に組み立てていく、という進め方に関心があれば、IT・AI研修という形でそのあたりを扱っています。使い方を覚えることより、自分たちの業務のどこに置くと効くかを見つけるところに重心を置いた中身です。
ゴールは「覚えた人」でなく「考え続けられる状態」
この形をとっているのは、研修が目指すゴールの置き場所が、少し違うからかもしれません。
私が置きたいゴールは、「使い方を覚えた人」を増やすことではなくて、「自分の業務で使いどころを考え続けられる状態」のほうです。操作は、必要になれば後からでも身につきます。でも、自分の業務のどこが重くて、どこにAIや自動化を置くと効くのか、という見立ては、覚えるものではなくて、その会社の中で考え続けていくものだと思っています。
だから研修では、私が作って見せながら、なぜここに置いたのか、なぜこの工程は人が握るべきなのか、という考え方のほうをできるだけ言葉にして渡すようにしています。手順書だけ渡しても、なぜそう組んだのかが残らないと、担当者が変わった途端に元に戻ってしまう。考え方ごと残ることが、研修が終わったあとも回り続ける形につながるのかなと思っています。このあたりはAI活用が定着しない理由と、業務に組み込む定着支援の進め方のほうで、もう少し具体的に書いています。
つまずくところ
正直に言うと、この形には難しさもあります。
一つは、その場で作って見せる、という進め方は、事前にその会社の業務をある程度理解していないと成り立たないことです。汎用のスライドを配るより準備に手間がかかりますし、当日その場で出てきた業務にも対応できる必要がある。私自身がその会社の事情を分かっていないと、うまく回りません。
もう一つは、受講する側にも、少しだけ手を動かす気持ちが要ることです。ただ聞いて帰る座学に比べると、自分の業務を持ち寄って一緒に作る形は、受け身のままでは進みにくい。ここは合う合わないがあると思っていて、とにかく体系立った知識を一気に入れたい、という場合には、むしろ整理された講義のほうが向いているかもしれません。
それでも私がこの形を選んでいるのは、使い方を覚えて終わり、ではなく、自分たちの業務で考え続けられる状態のほうが、後々効いてくる場面を見てきたからだと思います。
生成AI研修と聞いたとき、思い浮かべるのは、整ったカリキュラムを順番に教わる時間でしょうか。それとも、自分たちの業務を題材に一緒に手を動かす時間でしょうか。どちらを選ぶかで、研修が終わったあとに残るものは、少し変わってくるのかもしれないな、と思っています。


